"本物"を超える「ドバイチョコレート」を作る!パティシエの挑戦
ドバイチョコレートの魅力と背景
中東発祥とその歴史
ドバイチョコレートは、中東ドバイ発祥のユニークなチョコレート菓子です。2021年頃にドバイの小さなチョコレート工房で誕生し、細麺状の生地とピスタチオクリームをチョコレートで挟んだ斬新な一品として注目を集め始めました。カダイフ(小麦やトウモロコシ粉から作る細い麺状の伝統菓子生地)をカリカリに焼き上げ、それを濃厚なピスタチオペーストと組み合わせ、周りをチョコレートでコーティングしたこのチョコレートバーは、中東ならではの素材と西洋のチョコレート文化を融合させたデザートです。
誕生当初は地元ドバイで知る人ぞ知る存在でしたが、2023年末頃からSNSを通じて一気に世界中にその名が広がりました。あるフードインフルエンサーがASMR動画でこのチョコレートを食べる様子を投稿すると、カリッとした食感と断面に詰まった緑色のピスタチオクリームが「見たことない!」と話題に火がついたのです。特に韓国で2024年夏にブームとなり、その勢いは日本にも飛び火しました。TikTokやInstagramのリールで取り上げる人が続出し、「サクサク音が気持ちいい」「一度食べてみたい」と多くのユーザーが関心を示しました。
しかし急激な人気に生産が追いつかず、入手困難なお菓子として知られるようになります。本場ドバイでは連日注文が殺到し、一時は数万件のオーダーが殺到して在庫切れになるほどの盛況ぶりでした。こうした中、高額転売も社会現象化し、元値数百円程度のチョコレートがオンライン上で何倍もの価格で取引される事態も起こりました。それほどまでに「一度味わってみたい」と人々を夢中にさせたのがドバイチョコレートなのです。
「本物」と称される理由
SNSで話題になる中で、日本では特に「本物のドバイチョコレートを食べてみたい」という声が上がりました。「本物」と称されるのは、このチョコレートがドバイのオリジナルブランドから生まれた正真正銘の品だからです。創始者である現地のショコラティエが試行錯誤の末に生み出した独自レシピは、他では味わえない特別な組み合わせでした。香ばしいピスタチオと練りごま(タヒニ)が織りなす深いコク、そしてカダイフ生地のパリパリとした軽快な歯ごたえ――これらが完璧なバランスで調和していることが「本物」たるゆえんなのです。
さらにドバイチョコレートは、中東のデザート文化を背景に持つ点でも唯一無二です。中東地域ではピスタチオやナッツ、蜂蜜を使った濃厚なお菓子が古くから親しまれており、その伝統のエッセンスがこのチョコレートに凝縮されています。加えて、ドバイは世界中の高級食材が集まる地でもあり、オリジナルの製造元では素材の質にも徹底的にこだわっています。ピスタチオの産地選定からチョコレートのカカオ含有量まで緻密に計算され、一つひとつ丁寧にハンドメイドされるクオリティの高さが「本物」と呼ばれる所以でしょう。
こうした背景から、「本物のドバイチョコレート」は単なるSNS映えする話題菓子以上の価値を持っています。その味わいと食感は一度体験すると癖になると評判で、模倣品や類似商品が出回った後も「やはり本場のものが格別」というファンは少なくありません。
では、その「本物」を知り尽くした上で、日本のパティシエが挑んだ新たなドバイチョコレートとは一体どんなものなのでしょうか。
パティシエの挑戦:新たなドバイチョコレート作り
こだわりの原材料と選定基準
世界的なブームとなったドバイチョコレートに刺激を受け、日本のとある熟練パティシエ(私)が「"本物"を超えるドバイチョコレート作り」に乗り出しました。その第一歩は原材料選びへの徹底したこだわりです。オリジナルにならいピスタチオやカダイフ生地は必須ですが、味や品質で決して劣らぬよう、それぞれ厳選された素材を使用しています。
例えばピスタチオ一つをとっても、風味豊かで鮮やかな緑色のものを求め、中東産の最高級ピスタチオやシチリア産ブロンテ種など複数の産地を比較検討しました。香りとコクの要であるごまペースト(タヒニ)も上質な白ゴマから作られたものを使用し、雑味のない滑らかな舌触りを追求しています。
また、チョコレートはカカオ分と口どけに定評のあるクーベルチュールチョコレート(チョコレートの規定の最高ランクのもの)を採用し、甘さとカカオの風味のバランスに細心の注意を払いました。
カダイフ生地は国内での調達が難しいため、中東から取り寄せるか、自家製で再現することに挑戦しています。自家製の場合は小麦粉やコーンスターチから独自に生地を作り、細い糸状に流して焼き上げるという手間のかかる作業ですが、これも理想の食感を得るための妥協なき取り組みです。
選定した主な原材料と特徴を以下にまとめます。
原材料 | 特徴と選定理由 |
---|---|
ピスタチオ | 濃厚な風味と鮮やかな色合いが特徴。中東産やシチリア産の最高品質を使用し、クリームのコクを最大限引き出すために厳選。 |
カダイフ生地 | サクサク食感を生む細麺状の生地。現地から直輸入、または職人技で手作り。しっかり焼成し水分を飛ばすことで、時間が経っても食感を維持。 |
タヒニ(ごまペースト) | 中東伝統の練りごま。ピスタチオと混ぜ合わせることで奥深いコクを付与。本場同様の上質なものを使い、クセのない風味を実現。 |
チョコレート | カカオバター含有量の高い高級クーベルチュールを使用。ビターすぎずミルキーすぎない絶妙な風味で、ピスタチオクリームとの調和を図る。 |
砂糖・蜂蜜 | 甘味には上品な甘さが出るよう微調整。白砂糖だけでなく蜂蜜を隠し味に使い、まろやかな甘みと香りをプラス(中東菓子の伝統に着想)。 |
このように、素材一つひとつにまで気を配り、"本物"に負けないどころかそれ以上の味わいを引き出すための素材作りを行いました。パティシエは「素材のポテンシャルを最大限に生かせば、必ずオリジナル以上のものが作れる」という信念で取り組んでいます。